大手食品企業がケージフリーに移行する理由:ESG投資とブランドイメージの観点から

卵の価格とアニマルウェルフェア SDGsと福祉
  1. はじめに:動物福祉が投資判断の重要指標に
  2. 第1章:ケージフリーとは何か – 基本的な理解
    1. 飼育方法の分類
      1. 1. バタリーケージ(従来型)
      2. 2. エンリッチドケージ(改良型ケージ)
      3. 3. ケージフリー(Cage-Free)
      4. 4. フリーレンジ(Free-Range)
      5. 5. 完全放し飼い(Pastured/Open-Range)
      6. 6. オーガニック卵
    2. 市場規模の急拡大
  3. 第2章:消費者意識の変化 – 需要側からの圧力
    1. 動物福祉への関心の高まり
    2. プレミアム価格への支払い意欲
    3. 情報の透明性への要求
  4. 第3章:ESG投資の台頭 – 機関投資家からの圧力
    1. 動物福祉がESG評価項目に
    2. 機関投資家の動き
    3. FAIRRネットワークの影響力
    4. リスク管理の観点
  5. 第4章:企業のケージフリーコミットメント – 実例
    1. 先進的な企業の取り組み
      1. McDonald’s
      2. Mondelēz International
      3. CVS Health
      4. 7-Eleven
      5. gategroup(機内食大手)
      6. Starbucks
    2. 業界全体の動向
  6. 第5章:規制環境の変化 – 法的圧力
    1. 米国の州レベル規制
    2. 欧州の先進的な取り組み
      1. ドイツ
      2. EU全体
    3. 日本の状況
  7. 第6章:ブランドイメージとマーケティング戦略
    1. 差別化戦略としてのケージフリー
    2. 透明性とトレーサビリティ
    3. ブランドレピュテーションリスクの回避
    4. NGOとの協働
  8. 第7章:課題と障壁 – なぜ達成できない企業もあるのか
    1. 供給不足の問題
    2. 価格面での課題
    3. 鳥インフルエンザの影響
    4. 実務面での複雑さ
  9. 第8章:健康と食品安全の観点
    1. 抗生物質使用の削減
    2. 卵の品質と栄養価
    3. 食品安全性の向上
  10. 第9章:経済性の分析 – コストとリターン
    1. 追加コスト
    2. 長期的な経済的メリット
    3. 規模の経済
  11. 第10章:日本企業への示唆と今後の展望
    1. 日本市場の特殊性
    2. 日本企業が直面する課題
    3. 機会とアクション
      1. 先行者利益
      2. グローバルスタンダードへの対応
      3. 段階的アプローチ
      4. サプライヤーとの協働
    4. グローバルトレンドの加速
  12. 結論:持続可能なビジネスモデルへの転換
    1. 投資家の視点
    2. 企業の責任
    3. 日本企業への期待
    4. 消費者の力
    5. 未来への展望
    6. 測定可能な成果
  13. 終わりに:ビジネスと倫理の統合
  14. 付録:ケージフリー移行のためのチェックリスト
    1. フェーズ1:評価と計画(3-6ヶ月)
    2. フェーズ2:戦略策定(1-3ヶ月)
    3. フェーズ3:実行とコミュニケーション(1-5年)
    4. フェーズ4:モニタリングと改善(継続的)
  15. 参考資料・データソース
    1. 主要調査機関
    2. 統計データ
    3. 主要企業のコミットメント
    4. 規制状況
    5. 関連団体
  16. 用語集

はじめに:動物福祉が投資判断の重要指標に

世界の食品業界で、ケージフリー卵への移行が加速しています。2025年までに、世界中で70以上の国際ブランドが全面移行を約束し、すでに1,157社の食品企業がケージフリーへの転換を完了しました。

この大規模な転換の背景には、単なる「倫理的配慮」以上の戦略的理由があります。ESG投資とリスク管理の観点から、動物福祉への取り組みが企業評価に大きく影響するようになってきています。

本記事では、なぜ世界の大手食品企業がケージフリーに移行するのか、ESG投資・ブランドイメージ・規制環境の3つの視点から詳しく解説します。


第1章:ケージフリーとは何か – 基本的な理解

飼育方法の分類

現代の採卵鶏の飼育方法は、大きく以下のように分類されます:

1. バタリーケージ(従来型)

  • 特徴: 鶏を小さなケージに閉じ込める工場型畜産の標準的手法
  • 問題点: 自然な行動(営巣、止まり木への止まり、地面での採餌)が阻害され、骨の健康問題、生殖疾患、ストレスなどを引き起こす可能性があります
  • 現状: 世界で最も一般的だが、徐々に廃止される方向

2. エンリッチドケージ(改良型ケージ)

  • 特徴: 止まり木、営巣箱、より広いスペースを提供
  • 限界: 依然として鶏の行動的・身体的ニーズを十分に満たせないとされています

3. ケージフリー(Cage-Free)

  • 特徴: 鶏が屋内の開放的な空間で生活し、自由に動き回れる環境
  • 形態: バーン(barn)システムとも呼ばれる
  • 行動の自由: 営巣、止まり木への止まり、羽ばたき、砂浴びなどが可能

4. フリーレンジ(Free-Range)

  • 特徴: ケージフリーに加えて屋外へのアクセスがあり、鶏は通常の餌以外にも屋外の草や虫などを自由に食べることができます

5. 完全放し飼い(Pastured/Open-Range)

  • 特徴: 最も広範囲の自由があり、餌も全て屋外の草や虫などを食べて生活できます

6. オーガニック卵

  • 特徴: オーガニック飼料のみを使用し、抗生物質を用いず、バッテリーケージも使用せず、基本的に動き回る空間が与えられます

市場規模の急拡大

ケージフリー卵市場は2024年に128億ドルと評価され、2034年までに224億ドルに達すると予測されており、年平均成長率5.8%で拡大しています。

米国農務省によると、2024年時点でケージフリー卵の生産システムは米国の採卵鶏全体の35.8%を占めており、2018年の18.6%から大幅に増加しています。


第2章:消費者意識の変化 – 需要側からの圧力

動物福祉への関心の高まり

米国獣医学会の調査によると、消費者の73%が食品購入の際に動物福祉を重要視しており、特にミレニアル世代とZ世代で人道的に飼育された製品への選好が強いとされています。

米国人道協会の報告では、バッテリーケージシステムに対する消費者の認知度が2015年の42%から2024年には68%に上昇し、これがケージフリー卵への需要増加と直接相関しています。

プレミアム価格への支払い意欲

消費者はケージフリー卵に対して15-25%のプレミアム価格を支払う意思があることが示されています。

これは単なる「良いことをしたい」という感情的動機だけでなく、品質が高く、より栄養価の高い製品であると認識し、健康的な食生活を望む消費者が増えていることも背景にあります。

情報の透明性への要求

Target顧客を対象とした調査では、回答者の82%が鶏はケージのない開放的な鶏舎で飼育されるべきだと考えている一方、66%が実際にケージフリー卵を示すラベルを正しく識別できないか、確信が持てない状況でした。

この情報ギャップは、企業にとって透明性の高いコミュニケーションと明確なラベリングの重要性を示しています。


第3章:ESG投資の台頭 – 機関投資家からの圧力

動物福祉がESG評価項目に

英国の2つのNPOが2012年に共同で立ち上げた「BBFAW(畜産動物福祉に関する企業のベンチマーク)」は、世界の大手食品会社150社を対象に動物福祉政策、管理システム、実績、透明性などを評価し、投資家や消費者に情報を提供しています。

このベンチマークの影響は大きく、持続可能な調達、企業の社会的責任、家畜福祉といった問題が、投資リスク管理やESG投資において重視されるようになっています。

機関投資家の動き

動物福祉を中心とした戦略を提供する最初の投資管理会社カーナー・ブルー・キャピタルは、2019年9月に「アニマル・インパクト・ファンド」を立ち上げ、動物福祉で業界をリードする企業に投資することで、投資家に長期的な利益を生み出すとともに、企業の行動に影響を与え、世界の動物の生活を改善することを目的としています。

ESG投資のポートフォリオを提供するOpenInvestも、工場畜産と動物実験において動物福祉の観点を追加することを発表しました。

FAIRRネットワークの影響力

世界の機関投資家ネットワークFAIRRは、4,227兆円の資産を運用する投資機関で構成されており、畜産分野のESG投資が急速に増加していることを示しています。

投資家たちは、飼料栽培や放牧による森林破壊に関連する事業からの撤退、植物性タンパク質への投資、そしてアニマルウェルフェア畜産への投資の増加という傾向を示しています。

リスク管理の観点

動物福祉は、政治や世論に対して影響力を持つ社会問題に発展しつつあり、公共衛生の問題でもあり、規制リスクに発展する可能性があります。

動物福祉面での優良な取り組みや実績は、企業にとって差別化要因であり、持続可能なリターンにつながるという認識が、機関投資家の間で共有されつつあります。


第4章:企業のケージフリーコミットメント – 実例

先進的な企業の取り組み

McDonald’s

McDonald’sは目標よりも大幅に早く、2025年までに米国とカナダでケージフリー卵への完全移行を達成しました。

Mondelēz International

Mondelēz Internationalは2025年までに世界のケージフリー卵100%を目指し(ロシア、ウクライナ、ベトナムを除く)、2020年末までに米国とカナダの全卵供給をケージフリーにしました。

同社は2021年、EU委員会とEU議会議員に対し、採卵鶏から始めて動物飼育でのケージ使用を段階的に廃止し、EU全体でケージ使用を禁止する動物福祉法の改正を求める書簡を発出した食品企業の一つとなりました。

CVS Health

CVS Healthは、企業の社会的責任の一環として動物の倫理的扱いにコミットし、2015年に2025年までに小売チェーン全体でケージフリー卵を調達することを発表。この目標を2022年末に達成し、現在すべての店舗で提供される卵はケージフリー以上(フリーレンジ)となっています。

7-Eleven

米セブン-イレブンは、米国及びカナダの約17,000店舗で販売する全ての卵を2025年までにケージフリー卵にすると発表し、サンドイッチなど加工食品に入っている卵もケージフリー卵にしていくとしています。

gategroup(機内食大手)

世界的な機内食サービス企業gategrroupは、2025年までに全世界で100%ケージフリー卵に移行することを約束し、すでに75%以上を達成しています。

gatergroupのCOOは「これは、よりトラるな、持続可能な企業になるための重要なステップであり、持続可能で倫理的なサプライチェーンの維持を常に重視してきたが、さらに取り組む責任がある」と述べています。

Starbucks

Starbucksは2008年からケージフリー卵の購入を開始し、年々購入量を増やしてきており、会社が運営する店舗で100%ケージフリー卵と卵製品のみを使用することを目標としています。

ただし、中国と日本という2つの最大市場では、ケージフリー卵の生産が限られており、商業的に実行可能な規模で供給がまだ広く利用できない状況が課題となっています。

業界全体の動向

Open Wing Allianceの報告によると、2022年以前を期限とする約2,500のケージフリー卵コミットメントのうち、2023年4月時点で89%(1,157件)が達成されています。

企業の内訳は、レストラン509社、小売業174社、フードサービス・ケータリング118社、ホスピタリティ95社、生産者53社、流通業者19社となっています。


第5章:規制環境の変化 – 法的圧力

米国の州レベル規制

カリフォルニア州やマサチューセッツ州など、11州がケージ飼育された鶏からの卵の販売を義務づける法律を制定しています。

これらの規制は、企業が全米レベルでケージフリーに移行する重要な動機となっています。州ごとに異なる規制に対応するよりも、全体を統一する方が効率的だからです。

欧州の先進的な取り組み

ドイツ

ドイツは規制面で最も積極的で、ケージフリーシステムに代替住宅システムで飼育された採卵鶏が全体の89%を占めています。

EU全体

欧州連合のデータによると、2023年時点で加盟国全体の採卵鶏の約52%がケージフリーを含む代替飼育システムで飼育されています。

ドイツ89%、オーストリア85%、スウェーデン82%という高い割合で代替システムが採用されています。

日本の状況

米国だけで400社以上の企業が2025年までにケージフリー卵のみを使用することを約束しており、日本に拠点を持つグローバル企業は、日本の拠点もケージフリー政策に含めています。その結果、ヒルトン、マリオットホテル、インターコンチネンタルホテルなどの大手企業がケージフリー購入に移行しています。

しかし日本国内企業の対応は遅れており、BBFAW(畜産動物福祉に関する企業のベンチマーク)で評価対象となっている日本企業5社の評価は低い状況です。


第6章:ブランドイメージとマーケティング戦略

差別化戦略としてのケージフリー

商品の差別化がこれまで以上に重要性を増しており、動物福祉を含むサプライチェーン管理に対する消費者意識の変化を背景に、これはビジネスチャンスだと言えます。

プレミアムブランドとしてのポジショニング、倫理的消費者層の獲得、競合他社との差別化という3つの観点から、ケージフリーへの移行は戦略的意味を持ちます。

透明性とトレーサビリティ

パッケージ上のQRコードによるトレーサビリティへの注目の高まりが、消費者の信頼と市場成長に影響を与えています。

企業は単に「ケージフリー」と表示するだけでなく、飼育環境、農場の場所、認証情報などを透明に開示することで、消費者の信頼を獲得しています。

ブランドレピュテーションリスクの回避

Starbucksは自社のForm 10Kで、「当社ブランドの継続的な関連性は、動物の健康と福祉を含む社会的・環境的プログラム目標に向けて十分な進展を遂げることに依存する可能性がある」と述べています。

動物福祉への取り組みが不十分な場合、SNSでの炎上、NGOからの批判キャンペーン、消費者ボイコットなどのリスクがあります。これらのリスクを回避するために、企業は先手を打ってケージフリーに移行しています。

NGOとの協働

gatergroupは、The Humane LeagueやLever Foundationといった動物福祉NGOと協力し、ケージフリー移行を推進しています。

NGOとの建設的な対話は、企業が正しい方向に進んでいることの証明となり、かつ実務的な支援も受けられるというメリットがあります。


第7章:課題と障壁 – なぜ達成できない企業もあるのか

供給不足の問題

Targetは2016年に設定した2025年までに100%ケージフリー卵を販売するという目標を達成できないと発表しました。同社は当初から「利用可能な供給に基づく」という条件を付けていました。

昨年の報告書で、Targetはケージフリー卵を生産するプライベートブランドGood & Gatherの最大2施設が鳥インフルエンザの打撃を受け、「ケージフリー目標への進展が大幅に妨げられた」と述べています。

Starbucksも、北米と英国ではケージフリー卵の供給が大幅に増加したものの、中国や日本など一部市場では、ケージフリー卵の生産が限られており、商業的に実行可能な規模で供給がまだ利用できないと説明しています。

価格面での課題

Targetは、ケージフリー卵は従来の卵よりも高価であり、12以上の州が低所得女性と幼児のためのWICプログラムでケージフリー卵を認めていないと説明しています。

価格は卵購入者にとって最も重要な要因であることが調査で示されており、消費者が鶏をケージに入れたくないと言っても、その信念を支持するためにより多くの金額を支払う意思があるかどうかは別の問題です。

鳥インフルエンザの影響

近年、鳥インフルエンザの流行が養鶏場を壊滅させ、卵の供給を減少させ、価格を押し上げています。

ケージフリーシステムは鶏が密集して生活するため、感染症のリスクが高いという指摘もあり、これが供給不安定性の一因となっています。

実務面での複雑さ

gatergroupのように、グローバルで複雑なサプライチェーンを持つ企業にとって、全地域でケージフリーに移行することは「特に持続可能なサプライヤー基盤があまり成熟していない地域では最終的な課題」となっています。


第8章:健康と食品安全の観点

抗生物質使用の削減

英国の大手卵生産者Noble Foodsは、2017年から2020年にかけて、フリーレンジ卵ではケージ飼育よりも抗生物質の使用が少なかったと報告しています。

ケージフリーシステムでは、鶏のストレスが低減され、免疫力が向上することで、予防的な抗生物質使用の必要性が減少する可能性があります。

卵の品質と栄養価

消費者調査では、ケージフリー卵を品質が高く、より栄養価の高い製品と認識しています。

実際の栄養価の違いについては科学的議論が続いていますが、飼育環境が改善されることで鶏の健康状態が向上し、結果として卵の品質も向上する可能性は指摘されています。

食品安全性の向上

ケージフリーシステムでは、鶏がより衛生的な環境で飼育される可能性があり、サルモネラ菌などの食中毒リスクが低減される可能性があります。ただし、適切な管理が前提条件となります。


第9章:経済性の分析 – コストとリターン

追加コスト

ケージフリーシステムへの移行には、生産者にとって初期投資(鶏舎の改修・新築)、運営コスト増(飼料効率の低下、労働力増加、空間コスト)などの負担があります。

消費者は15-25%のプレミアム価格を支払う意思があるとされますが、これが生産者・流通業者・小売業者の間でどう配分されるかは交渉次第です。

長期的な経済的メリット

  1. ブランド価値の向上: 倫理的ブランドとしてのプレミアム化
  2. 顧客ロイヤルティの向上: 価値観を共有する消費者との長期的関係構築
  3. 規制リスクの回避: 将来的な法規制への先行対応
  4. 投資家からの評価: ESG評価の向上による資金調達の円滑化
  5. 人材確保: 倫理的な企業文化が優秀な人材を引き付ける

規模の経済

ケージフリー卵市場が拡大し、2023年時点で世界で1億5,000万羽以上の鶏がケージフリーで飼育され、米国だけで1億1,700万羽以上となることで、生産コストは徐々に低下しています。

大手企業が移行することで供給チェーン全体の効率が改善し、中小企業にとってもケージフリーへの移行が容易になるという好循環が生まれています。


第10章:日本企業への示唆と今後の展望

日本市場の特殊性

日本では依然としてバッテリーケージが主流であり、ケージフリーへの移行は遅れています。しかし、グローバル企業が日本拠点もケージフリー政策に含め始めており、大手ホテルチェーンなどがケージフリー購入に移行しています。

日本企業が直面する課題

  1. 消費者認知の低さ: 動物福祉への関心が欧米ほど高くない
  2. 価格感度: 卵の低価格を重視する消費者心理
  3. 供給体制の未整備: ケージフリー卵の生産インフラが不足
  4. 情報の不透明性: 飼育方法の表示が不十分

機会とアクション

先行者利益

日本市場でいち早くケージフリーに移行する企業は、差別化とブランド価値向上の機会を得られます。

グローバルスタンダードへの対応

BBFAWなど国際的な評価システムで日本企業の評価が低い現状を改善することで、海外投資家からの評価を高められます。

段階的アプローチ

  1. フェーズ1: プレミアム商品ラインでケージフリー導入
  2. フェーズ2: 自社ブランド製品での採用拡大
  3. フェーズ3: 全製品への展開と公開コミットメント

サプライヤーとの協働

生産者との長期契約、技術支援、投資支援などを通じて、国内のケージフリー生産体制を構築することが重要です。

グローバルトレンドの加速

2023年、世界で70以上の食品企業が2026年までに100%ケージフリー卵調達への移行時期を発表し、ケージフリー卵の世界消費は前年比19%増加しました。

日本では2023年にケージフリー卵の購入が21%急増し、ドイツでは卵消費の65%がケージフリー由来となっています。

フランスやオランダなどの国々は、ほぼ100%のケージフリー卵小売可能性を達成し、強力な消費者と規制の整合性を反映しています。


結論:持続可能なビジネスモデルへの転換

大手食品企業がケージフリーに移行する理由は、単純な「善意」や「倫理」だけではありません。

3つの戦略的要因が複合的に作用しています:

  1. ESG投資の主流化: 動物福祉がESG評価の重要指標となり、機関投資家の投資判断に影響を与えています
  2. 消費者価値観の変化: 73%の消費者が動物福祉を重視し、15-25%のプレミアム価格を支払う意思があります
  3. 規制環境の進化: 欧米を中心に法規制が強化され、グローバル企業は統一対応を迫られています

投資家の視点

動物福祉への取り組みは、短期的にはコスト増となりますが、中長期的には規制リスクの回避、ブランド価値の向上、持続可能なリターンにつながると評価されています。

企業の責任

Mondelēz Internationalの取締役会長兼CEOであるDirk Van de Put氏は「私たちは、動物が尊重され、人道的に扱われるべきだと信じています。私たちのケージフリー卵への取り組みは、この約束の重要な部分です」と述べています。

この発言は、現代の企業リーダーにとって、動物福祉が単なるコンプライアンス事項ではなく、企業価値の中核をなす要素となっていることを示しています。

日本企業への期待

日本市場は欧米に比べてケージフリー移行が遅れていますが、グローバル基準との整合性を求める圧力は確実に高まっています。

日本企業が取るべき3つのステップ:

  1. 現状の可視化: 自社のサプライチェーンにおける動物福祉の実態を把握し、BBFAWなどの国際評価基準に照らした評価を実施
  2. コミットメントの表明: 明確な移行目標と期限を設定し、ステークホルダーに公開。段階的でも構わないが、方向性を示すことが重要
  3. エコシステムの構築: 生産者、流通業者、小売業者、NGO、政府などとの協働により、日本国内のケージフリー供給体制を整備

消費者の力

最終的に、この変革を推進するのは消費者の選択です。

ケージフリー卵を選ぶことで、消費者は:

  • 動物福祉の改善に貢献
  • より持続可能な食料システムを支持
  • 倫理的な企業行動にインセンティブを与える

という3つの影響力を行使できます。

未来への展望

ケージフリーへの移行は、より大きな「持続可能な食料システム」への転換の一部です。

次のステップとして考えられるのは:

  • デュアルパーパス品種の開発: 卵も肉も生産できる品種により、雄雛殺処分問題も同時解決
  • 細胞培養卵: 動物を飼育せずに卵を生産する技術開発
  • 植物由来の卵代替品: 動物性タンパク質に依存しない選択肢の拡大
  • 完全循環型農業: 鶏の飼育を含む持続可能な農業システムの構築

測定可能な成果

2023年のデータは、この変革の規模を示しています:

  • 1億5,000万羽以上: 世界でケージフリーで飼育される鶏の数
  • 89%: ドイツにおけるケージフリー率
  • 65%: ドイツの卵消費におけるケージフリーの割合
  • 19%: 世界のケージフリー卵消費の前年比成長率
  • 1,157社: ケージフリーコミットメントを達成した企業数

これらの数字は、業界全体の大規模なシフトを示しています。


終わりに:ビジネスと倫理の統合

かつて「ビジネス」と「倫理」は対立概念と捉えられることもありました。しかし、ケージフリー移行の事例は、両者が統合可能であり、むしろ統合すべきであることを示しています。

動物福祉への配慮は、コストではなく投資です。ブランド価値、消費者信頼、投資家評価、従業員エンゲージメント、規制対応力など、多面的なリターンをもたらします。

世界の大手食品企業がケージフリーに移行する理由は、「正しいことをしたいから」だけでなく、「正しいことがビジネスとして正しいから」なのです。

この認識が、日本市場でも広がり、より多くの企業が行動を起こすことを期待します。そして最終的には、すべての採卵鶏が、種としての自然な行動を表現できる環境で生活できる日が来ることを願っています。


付録:ケージフリー移行のためのチェックリスト

企業がケージフリーに移行する際の実務的なステップ:

フェーズ1:評価と計画(3-6ヶ月)

  • [ ] 現在の卵調達量と使用用途の把握
  • [ ] サプライヤーのケージフリー供給能力の調査
  • [ ] コスト影響分析(調達、物流、価格設定)
  • [ ] 競合他社の動向調査
  • [ ] ステークホルダー(投資家、従業員、消費者)の意見収集
  • [ ] リスク評価(供給不足、価格変動、鳥インフルエンザ)

フェーズ2:戦略策定(1-3ヶ月)

  • [ ] 移行目標の設定(期限、範囲、優先順位)
  • [ ] 段階的移行計画の立案
  • [ ] サプライヤー選定基準の策定
  • [ ] 価格戦略の決定(プレミアム化 vs 吸収)
  • [ ] コミュニケーション戦略の設計
  • [ ] KPI設定と測定方法の決定

フェーズ3:実行とコミュニケーション(1-5年)

  • [ ] サプライヤーとの長期契約締結
  • [ ] パイロットプログラムの実施
  • [ ] 公開コミットメントの発表
  • [ ] パッケージとマーケティング資料の更新
  • [ ] 従業員トレーニング
  • [ ] NGOとの協働関係構築
  • [ ] 進捗の定期的報告

フェーズ4:モニタリングと改善(継続的)

  • [ ] サプライチェーンの透明性確保
  • [ ] 第三者認証の取得(Certified Humaneなど)
  • [ ] 動物福祉監査の実施
  • [ ] 消費者フィードバックの収集と分析
  • [ ] コストと効果の測定
  • [ ] 次のステップ(フリーレンジ、オーガニックなど)の検討

参考資料・データソース

主要調査機関

  • BBFAW(Business Benchmark on Farm Animal Welfare): 世界の食品企業150社の動物福祉評価
  • FAIRR(Farm Animal Investment Risk & Return): 機関投資家ネットワーク、4,227兆円の資産運用
  • Open Wing Alliance: ケージフリーコミットメント追跡

統計データ

  • 米国農務省(USDA): ケージフリー飼育率35.8%(2024年)
  • ケージフリー卵市場規模: 128億ドル(2024年)→224億ドル(2034年予測)
  • 年平均成長率: 5.8%
  • 消費者の動物福祉重視度: 73%(米国獣医学会調査)
  • プレミアム価格支払い意欲: 15-25%

主要企業のコミットメント

  • McDonald’s: 2025年完全移行達成(米国・カナダ)
  • Mondelēz International: 2025年100%目標
  • CVS Health: 2022年達成(2025年目標を前倒し)
  • 7-Eleven: 17,000店舗で2025年
  • Starbucks: グローバル展開中(一部市場で課題)
  • gategroup: 75%以上達成(2025年100%目標)

規制状況

  • 米国: 11州でケージ飼育卵の販売規制
  • ドイツ: 89%がケージフリー
  • フランス: ほぼ100%達成
  • EU全体: 52%がケージフリー含む代替システム
  • 日本: 遅れているが、グローバル企業が先行

関連団体

  • The Humane League
  • Lever Foundation
  • Mercy For Animals
  • Compassion in World Farming
  • カーナー・ブルー・キャピタル(動物福祉特化型投資ファンド)

用語集

バッテリーケージ: 従来型の密集ケージ飼育システム

エンリッチドケージ: 止まり木や営巣箱を備えた改良型ケージ

ケージフリー: 鶏が屋内で自由に動き回れる飼育システム

フリーレンジ: ケージフリー+屋外アクセス

ESG投資: 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮した投資

BBFAW: Business Benchmark on Farm Animal Welfare、企業の動物福祉評価指標

FAIRR: Farm Animal Investment Risk & Return、畜産業のESGリスク評価ネットワーク

デュアルパーパス品種: 卵も肉も生産できる両用品種

孵化前性別判定: 卵の段階で性別を判定し、雄雛殺処分を防ぐ技術

WICプログラム: 米国の低所得女性と幼児向け栄養補助プログラム


この記事は2025年11月時点の情報に基づいています。企業のコミットメントや規制状況は継続的に変化しているため、最新情報は各企業・団体の公式発表をご確認ください。

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