農家がケージフリーに踏み出すための支援策とは?政府・民間連携の必要性

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はじめに

近年、動物福祉(アニマルウェルフェア)への関心が世界的に高まる中、日本でも採卵鶏の飼育方法を見直す動きが加速しています。特に注目されているのが「ケージフリー」への転換です。ケージフリーとは、鶏を従来のバタリーケージ(密閉された狭いケージ)に閉じ込めるのではなく、鶏舎内で自由に動き回れる環境で飼育する方法を指します。

欧米諸国では既にケージフリーへの移行が進んでおり、EU諸国の多くでバタリーケージの使用が禁止されているほか、アメリカでもカリフォルニア州をはじめとする複数の州で規制が導入されています。大手食品企業や外食チェーンも相次いでケージフリー卵への切り替えを宣言し、消費者の意識も確実に変化しています。

しかし、日本国内でケージフリー飼育を実践している農家はまだ少数派です。その背景には、初期投資の負担、飼育技術の習得、販路の確保など、さまざまな課題が存在します。農家が安心してケージフリーに踏み出すためには、政府による制度的支援と民間企業による市場形成の両面からのサポートが不可欠です。

本記事では、ケージフリー移行に伴う農家の課題を整理し、政府と民間がどのような連携で支援策を構築すべきかを考察します。

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  1. ケージフリーとは何か――飼育方法の種類と特徴
    1. バタリーケージ飼育
    2. エンリッチドケージ飼育
    3. ケージフリー飼育(平飼い)
    4. 放牧飼育
  2. 日本におけるケージフリーの現状
  3. 農家が直面するケージフリー移行の課題
    1. 初期投資の負担
    2. 飼育管理の難しさ
    3. 生産性と収益性の低下
    4. 販路の確保
    5. 情報不足と孤立感
  4. 政府に求められる支援策
    1. 補助金・融資制度の拡充
    2. 技術指導と研修プログラムの提供
    3. 規制・基準の整備
    4. 研究開発の推進
    5. 消費者への啓発活動
  5. 民間企業に求められる役割
    1. 食品企業・外食チェーンによる調達方針の転換
    2. 小売業による販売促進
    3. 卵業者(パッカー)の体制整備
    4. 金融機関による投融資
    5. NGO・市民団体との協働
  6. 政府・民間連携の成功事例――海外から学ぶ
    1. オランダの「持続可能な養鶏への移行プログラム」
    2. アメリカの「ケージフリー連合」
    3. イギリスの「食品産業円卓会議」
  7. 日本における政府・民間連携の具体的提案
    1. 「ケージフリー推進協議会」の設立
    2. 「ケージフリー転換支援パッケージ」の創設
    3. 「ケージフリー認証制度」の官民共同運営
    4. 「ケージフリー研究開発コンソーシアム」の形成
    5. 「ケージフリー教育プログラム」の展開
  8. 移行期間における配慮と段階的アプローチ
    1. 小規模農家への特別配慮
    2. 地域特性への対応
    3. 段階的な目標設定
    4. 移行期間中の価格安定化策
  9. 消費者の役割と選択の重要性
    1. 価格プレミアムの受容
    2. 情報への関心と理解
    3. 声を上げることの重要性
  10. まとめ――持続可能な養鶏産業への転換に向けて

ケージフリーとは何か――飼育方法の種類と特徴

まず、ケージフリーの具体的な内容を理解するために、採卵鶏の主な飼育方法を整理しておきましょう。

バタリーケージ飼育

現在、日本の採卵鶏の約90%以上がこの方法で飼育されています。鶏を金網製の小さなケージに入れて多段式に積み上げる飼育方法で、省スペースで効率的に卵を生産できる一方、鶏は羽を広げることもできないほど狭い空間に閉じ込められます。近年、動物福祉の観点から問題視されるようになりました。

エンリッチドケージ飼育

バタリーケージを改良した飼育方法です。ケージ内に止まり木や産卵箱、爪研ぎ器具などを設置し、鶏の自然な行動をある程度可能にします。EUではバタリーケージが禁止される一方、エンリッチドケージは認められていますが、動物福祉団体からは不十分との指摘もあります。

ケージフリー飼育(平飼い)

鶏舎内で鶏を放し飼いにする方法です。鶏は床の上を自由に歩き回り、砂浴びや羽ばたきといった自然な行動ができます。ただし、鶏舎内での飼育のため、完全な屋外飼育とは異なります。日本では「平飼い」と呼ばれることが多く、ケージフリーの代表的な方法です。

放牧飼育

ケージフリーの一種で、鶏が屋外の放牧場に出ることができる飼育方法です。最も動物福祉に配慮した飼育方法とされますが、天候や季節の影響を受けやすく、管理の難易度も高くなります。

欧米で進むケージフリー化は、主に平飼いへの転換を指しています。鶏の行動の自由度を高めつつ、ある程度の生産性も維持できるバランスの取れた飼育方法として評価されているのです。

日本におけるケージフリーの現状

日本の採卵鶏飼育は、高度経済成長期に効率化が進み、バタリーケージが標準的な飼育方法として定着しました。現在も全体の約90%以上がこの方法で飼育されており、ケージフリー飼育はわずか数%に留まっています。

しかし、近年の動物福祉への関心の高まりを受けて、状況は少しずつ変化しています。2020年には日本でも「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方」が策定され、採卵鶏についても具体的な指針が示されました。また、2020年東京オリンピック・パラリンピックの食材調達基準にアニマルウェルフェアの考え方が盛り込まれたことも、業界に大きなインパクトを与えました。

民間企業の動きも活発化しています。ネスレ日本は2025年までに、日本国内で調達する卵を100%ケージフリーに切り替える方針を発表。スターバックスコーヒージャパンも2025年までに全店舗でケージフリー卵への切り替えを目指すと宣言しました。こうした大手企業の方針転換は、サプライチェーン全体に波及効果をもたらしています。

消費者の意識も変わりつつあります。特に若い世代を中心に、動物福祉や環境問題への関心が高まっており、多少価格が高くてもエシカルな商品を選ぶ消費者が増えています。実際、平飼い卵を扱うスーパーも増えてきており、一部の生協では平飼い卵が定番商品となっています。

それでも、日本のケージフリー化は欧米に比べて大幅に遅れているのが現状です。その背景には、農家が直面する様々な課題があります。

農家が直面するケージフリー移行の課題

ケージフリーへの転換を検討する農家は、いくつもの高いハードルに直面します。

初期投資の負担

最も大きな障壁となるのが、設備投資にかかる費用です。既存のバタリーケージ施設をケージフリーに転換するには、鶏舎の全面的な改修が必要になります。平飼いに必要な床面積はケージ飼育の約3倍から5倍。同じ羽数を飼育するためには、鶏舎を大幅に拡張するか、飼育羽数を減らさなければなりません。

新たに平飼い用の鶏舎を建設する場合、1羽あたりの設備投資額はバタリーケージの2倍から3倍になるとされています。1万羽規模の農家であれば、数千万円から億単位の投資が必要になることも珍しくありません。多くの養鶏農家は中小規模で、こうした巨額の投資を自己資金だけで賄うことは極めて困難です。

飼育管理の難しさ

ケージフリー飼育は、バタリーケージ飼育とは全く異なる飼育技術と管理ノウハウが求められます。

鶏が自由に動き回れる環境では、鶏同士のつつき合いや序列争いが起こりやすくなります。ストレスが高まると、最悪の場合、共食いに発展することもあります。こうした問題を防ぐには、適切な飼育密度の管理、鶏舎内の環境調整、鶏の健康観察など、高度な飼育技術が必要です。

また、床面での飼育は衛生管理も難しくなります。鶏の糞が床に溜まりやすく、適切に管理しないとアンモニアガスの発生や病気の蔓延につながります。定期的な清掃と敷料(床に敷く資材)の交換が必要で、労働負担も増加します。

さらに、平飼いでは卵が床の上や巣箱以外の場所に産み落とされることもあり、卵の回収作業もケージ飼育より手間がかかります。卵の汚れも増えるため、洗浄作業の負担も大きくなります。

こうした飼育技術は、本や講習会で学ぶだけでは身につきません。実際にケージフリー飼育を経験している農家から直接学んだり、自ら試行錯誤しながら技術を習得したりする必要があります。しかし、日本ではケージフリー飼育の先行事例が少なく、技術指導を受ける機会も限られています。

生産性と収益性の低下

ケージフリー飼育は、一般的にケージ飼育よりも生産性が低くなります。飼育密度が低いため、同じ面積での飼育羽数が減少します。また、鶏が自由に動き回ることでエネルギーを消費するため、産卵率がやや低下する傾向があります。

さらに、前述のように飼育管理の手間が増えるため、人件費も上昇します。飼料費についても、ケージフリー飼育では鶏の運動量が多いため、同じ産卵数を維持するにはより多くの飼料が必要になることがあります。

これらのコスト増を販売価格に転嫁できれば問題ありませんが、それには販路の確保が不可欠です。平飼い卵は通常の卵の2倍から3倍の価格で販売されることが多いですが、こうした価格帯で購入してくれる消費者や取引先を見つけられるかどうかは、農家にとって大きな不安材料です。

販路の確保

ケージフリー卵の市場は、日本ではまだ限定的です。一般的なスーパーでは平飼い卵の取り扱いが少なく、置いてあっても棚の一角に数種類程度という店舗がほとんどです。

大手の卵パッカー(卵を集荷・選別・パッケージングして販売する業者)の多くは、バタリーケージ卵を中心に扱っており、ケージフリー卵の取り扱いに積極的とは言えません。そのため、ケージフリーに転換した農家は、自ら販路を開拓しなければならないことが多いのです。

直売所での販売、飲食店への直接販売、インターネット通販など、小規模な販路を一つひとつ開拓していく作業は、時間も労力もかかります。特に高齢の農家にとっては、マーケティングやIT活用のスキルが求められることも大きな負担です。

情報不足と孤立感

日本でケージフリー飼育を実践している農家はまだ少数派のため、情報交換の機会が限られています。飼育上の問題が発生しても、誰に相談すればいいのか分からない、同じ悩みを共有できる仲間が近くにいない、といった孤立感を抱える農家も少なくありません。

欧米には、ケージフリー飼育に関する豊富な研究データや実践的なマニュアルが存在しますが、日本語に翻訳された情報は限られています。また、気候や飼料、鶏の品種などの違いから、海外の情報をそのまま日本の環境に適用できないこともあります。

こうした課題を一つひとつ見ていくと、個々の農家の努力だけでケージフリー化を進めることがいかに困難かが分かります。農家が安心してケージフリーに踏み出すためには、政府と民間企業が連携した包括的な支援体制の構築が不可欠なのです。

政府に求められる支援策

農家のケージフリー移行を後押しするために、政府が果たすべき役割は多岐にわたります。

補助金・融資制度の拡充

最も直接的で効果的な支援策は、ケージフリー飼育への転換にかかる初期投資を軽減する補助金制度の創設です。

現在、日本には畜産農家向けの設備投資補助金として「畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(畜産クラスター事業)」などがありますが、ケージフリー飼育への転換を特に優遇する制度は十分ではありません。

欧州諸国では、動物福祉に配慮した飼育への転換を支援する補助金制度が整備されています。例えば、オランダでは政府が平飼い鶏舎への改修費用の最大40%を補助する制度を設けています。フランスでも、ケージフリー飼育への転換を支援する補助金プログラムが実施されています。

日本でも、ケージフリー飼育への転換に特化した補助金制度を創設し、設備投資の3分の1から2分の1程度を支援することが望まれます。特に、中小規模の農家にとっては、こうした補助金が転換の決断を後押しする大きな要因となるでしょう。

また、補助金だけでなく、長期・低利の融資制度も重要です。日本政策金融公庫などの政府系金融機関が、ケージフリー転換向けの特別融資プログラムを設けることで、農家の資金調達を支援できます。

技術指導と研修プログラムの提供

設備があっても、適切な飼育技術がなければケージフリー飼育は成功しません。政府は、農家が必要な技術と知識を習得できる体制を整備する必要があります。

都道府県の畜産試験場や農業改良普及センターなどを活用し、ケージフリー飼育に関する研修プログラムを定期的に開催すべきです。座学だけでなく、実際にケージフリー飼育を実践している農場での実地研修を組み込むことで、より実践的な技術を学べます。

また、ケージフリー飼育に関する技術マニュアルや飼育管理ガイドラインを作成し、農家に無償で提供することも有効です。海外の先進事例や研究成果を日本の環境に合わせて翻訳・編集し、誰でもアクセスできる形で公開すれば、農家の技術習得を大きく後押しできます。

さらに、ケージフリー飼育に精通した専門家や先進農家を「アドバイザー」として登録し、転換を検討している農家に派遣する制度も考えられます。個別の農場の状況に応じたきめ細かな助言を受けられれば、農家の不安も大きく軽減されるでしょう。

規制・基準の整備

日本では現在、ケージフリー飼育に関する明確な基準や認証制度が確立されていません。「平飼い」という表示があっても、具体的な飼育条件は農家によってまちまちで、消費者にとっては判断材料が不十分です。

政府は、ケージフリー飼育の定義と基準を明確化し、公的な認証制度を創設すべきです。飼育密度、鶏舎の構造、止まり木や巣箱の設置基準など、動物福祉の観点から満たすべき条件を具体的に定めることで、農家にとっての目標が明確になり、消費者にとっても分かりやすい選択基準となります。

また、段階的な規制の導入も検討に値します。EUでは2012年にバタリーケージの使用が禁止されましたが、この規制は10年以上前から予告されており、農家には十分な移行期間が与えられました。日本でも、例えば「2035年までにバタリーケージの新設を禁止」「2045年までに既存のバタリーケージを段階的に廃止」といった長期的なロードマップを示すことで、業界全体に明確な方向性を示すことができます。

ただし、規制の導入にあたっては、農家の実態を十分に考慮し、現場の声を丁寧に聞き取ることが不可欠です。拙速な規制は農家に過度な負担を強いることになりかねません。

研究開発の推進

ケージフリー飼育の技術革新を促進するため、政府は研究開発への投資を強化すべきです。

国立研究機関や大学に対して、ケージフリー飼育に関する研究予算を重点配分し、以下のようなテーマに取り組むことが考えられます。

  • 日本の気候条件に適したケージフリー鶏舎の設計
  • 鶏のストレス軽減と健康維持のための飼育環境の最適化
  • ケージフリー飼育における疾病予防と衛生管理技術
  • 生産性向上のための飼料設計と給餌方法の改善
  • 労働負担を軽減する自動化・省力化技術の開発

こうした研究成果を農家に還元することで、ケージフリー飼育の課題を一つひとつ解決していくことができます。

消費者への啓発活動

ケージフリー卵の市場を拡大するには、消費者の理解と支持が不可欠です。政府は、動物福祉やケージフリー飼育について、消費者に正しい情報を提供する啓発活動を展開すべきです。

学校教育の中で動物福祉について学ぶ機会を設けたり、消費者向けのパンフレットやウェブサイトで情報発信したりすることで、社会全体の意識を高めていくことができます。

また、ケージフリー卵の表示制度を整備し、消費者が店頭で容易に識別できるようにすることも重要です。分かりやすいロゴマークや表示ルールを定めることで、消費者の選択を促すことができます。

民間企業に求められる役割

政府の支援策だけでなく、民間企業の積極的な関与もケージフリー化の推進には欠かせません。

食品企業・外食チェーンによる調達方針の転換

ケージフリー卵の需要を創出する上で、最も影響力が大きいのが食品メーカーや外食チェーンの調達方針です。

前述のように、ネスレやスターバックスなどの大手企業は既にケージフリー卵への切り替えを宣言していますが、こうした動きがさらに広がることが期待されます。日本の大手食品メーカーや外食チェーンが相次いでケージフリー方針を採用すれば、卵の供給側も対応せざるを得なくなり、業界全体の転換が加速します。

重要なのは、単に方針を宣言するだけでなく、具体的な移行計画とスケジュールを示すことです。「2030年までに使用する卵の50%をケージフリーに」「2035年までに100%ケージフリーに移行」といった明確な目標を掲げることで、サプライヤーである卵業者や農家も計画的に準備を進めることができます。

また、移行期間中は、ケージフリー卵の供給が不足する可能性も考慮し、複数の供給元を確保したり、農家との長期契約を結んだりするなど、安定調達のための工夫も必要です。

小売業による販売促進

スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売業も、ケージフリー卵の普及に大きな役割を果たします。

現状では、多くのスーパーで平飼い卵の取り扱いが限定的ですが、売り場での扱いを拡大し、消費者の目に触れやすい場所に陳列することで、購買意欲を高めることができます。

また、ケージフリー卵について、売り場でのPOP(店頭販促物)や店内放送などで積極的に情報発信することも有効です。「この卵は鶏が自由に動き回れる環境で育てられました」といった説明を添えるだけでも、消費者の関心を引くことができます。

一部の先進的な小売業では、プライベートブランド(PB)商品としてケージフリー卵を開発し、販売する動きも出ています。大手小売業がPBでケージフリー卵を展開すれば、調達量が大きくなるため、農家にとっても安定した販路となります。

卵業者(パッカー)の体制整備

卵業者は、農家と小売業・食品企業をつなぐ重要な中間業者です。ケージフリー卵の流通を拡大するには、卵業者の積極的な関与が不可欠です。

卵業者は、ケージフリー卵の集荷・選別・パッケージングの体制を整備し、安定供給できる仕組みを構築する必要があります。また、ケージフリー卵専用のブランドを立ち上げ、マーケティングを強化することで、市場の拡大に貢献できます。

さらに、卵業者は農家に対して技術指導や経営支援を行うことも可能です。契約農家に対してケージフリー飼育の研修を実施したり、転換にかかる費用の一部を支援したりすることで、安定した供給網を構築できます。

金融機関による投融資

銀行や信用金庫などの金融機関も、ケージフリー化を支援する役割を担えます。

近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資への関心が高まっており、動物福祉もその一環として注目されています。金融機関がケージフリー転換を「ESG対応」として評価し、優遇金利での融資や投資を行うことで、農家の資金調達を支援できます。

また、金融機関は農家に対して経営相談や事業計画策定の支援も提供できます。ケージフリー転換に伴う収支シミュレーションや販路開拓のアドバイスなど、金融面以外のサポートも農家にとっては大きな助けとなります。

NGO・市民団体との協働

動物福祉を推進するNGOや市民団体も、ケージフリー化において重要な役割を果たしています。

これらの団体は、企業に対してケージフリー方針の採用を働きかけたり、消費者への啓発活動を展開したりすることで、社会全体の意識を高めています。また、ケージフリー飼育を実践する農家を支援し、その取り組みを広く発信することで、農家のモチベーション向上にも貢献しています。

企業とNGOが対立するのではなく、建設的な対話を通じて協働することで、より実効性のある取り組みが可能になります。企業がNGOの専門知識や ネットワークを活用し、NGOが企業の資金力や影響力を活用する、双方向の協力関係が理想的です。

政府・民間連携の成功事例――海外から学ぶ

ケージフリー化を成功させるには、政府と民間企業の連携が鍵となります。海外には、参考になる事例がいくつもあります。

オランダの「持続可能な養鶏への移行プログラム」

オランダでは、政府、養鶏業界、動物福祉団体が協力して、バタリーケージからの段階的な移行を実現しました。

政府は移行のためのロードマップを示し、補助金制度を整備しました。同時に、業界団体は自主的な行動計画を策定し、会員農家への技術指導と情報提供を行いました。動物福祉団体は消費者への啓発活動を展開し、ケージフリー卵への需要を喚起しました。

この三者協働のアプローチにより、オランダでは比較的スムーズにケージフリー化が進展しました。現在、オランダで生産される卵の大半がケージフリーとなっています。

アメリカの「ケージフリー連合」

アメリカでは、大手食品企業、動物福祉団体、養鶏業界が「ケージフリー連合」を結成し、業界全体のケージフリー化を推進しています。

この連合では、企業がケージフリー方針を採用する際のベストプラクティスを共有したり、農家への技術支援プログラムを開発したりしています。また、ケージフリー卵の供給網を整備し、需要と供給のマッチングを図っています。

政府も、研究助成や技術指導プログラムを通じて、この取り組みを支援しています。民間主導でありながら、政府がバックアップするという役割分担が、効果的な連携を生み出しています。

イギリスの「食品産業円卓会議」

イギリスでは、政府が主催する「食品産業円卓会議」という枠組みの中で、食品企業、小売業、農業団体、NGOなどが定期的に対話を行っています。

この会議では、動物福祉を含む様々な課題について、関係者が率直に意見交換し、共通の目標と行動計画を策定します。ケージフリー化についても、この枠組みの中で業界横断的な取り組みが進められました。

政府がファシリテーター(調整役)となり、利害関係者間の対話を促進することで、対立ではなく協調的な解決策を見出すことができました。

これらの事例に共通するのは、政府が一方的に規制を押し付けるのでもなく、民間に全てを委ねるのでもなく、両者が対等なパートナーとして協力する姿勢です。日本でも、こうした協働のアプローチが求められています。

日本における政府・民間連携の具体的提案

海外の事例を参考にしつつ、日本の実情に合わせた政府・民間連携の仕組みを構築することが必要です。以下、具体的な提案をいくつか示します。

「ケージフリー推進協議会」の設立

政府(農林水産省)が主導して、養鶏業界団体、食品企業、小売業、動物福祉団体、研究機関などが参加する「ケージフリー推進協議会」を設立することを提案します。

この協議会では、ケージフリー化の長期的なビジョンと具体的な行動計画を策定します。業界全体での目標(例:「2040年までにケージフリー率50%達成」)を設定し、それに向けた各主体の役割と責任を明確化します。

また、定期的に進捗状況をモニタリングし、課題が生じた場合は関係者が協力して解決策を検討します。対話の場を制度化することで、継続的な取り組みが可能になります。

「ケージフリー転換支援パッケージ」の創設

政府と民間企業が共同で、農家のケージフリー転換を総合的に支援するパッケージプログラムを創設します。

このパッケージには、以下のような要素を含めます。

  1. 資金支援:政府の補助金と民間企業からの支援金を組み合わせて、初期投資の負担を軽減
  2. 技術支援:政府の研修プログラムと民間企業の技術アドバイザー派遣を組み合わせた指導体制
  3. 販路保証:参加する食品企業・小売業が、転換農家からの買取を長期契約で保証
  4. 情報共有:転換農家同士のネットワーク構築と、定期的な情報交換会の開催

このような包括的な支援があれば、農家は安心してケージフリーに踏み出すことができます。

「ケージフリー認証制度」の官民共同運営

ケージフリー飼育の基準と認証制度を、政府とNGO・業界団体が共同で運営することを提案します。

政府が基本的な基準を定め、NGOや業界団体が実際の認証審査を担当するという役割分担です。これにより、公的な信頼性と、現場に即した柔軟性を両立できます。

認証を取得した農家は、統一ロゴマークを使用でき、消費者にとって分かりやすい選択基準となります。また、認証農家を対象とした優遇措置(補助金の上乗せ、PR支援など)を設けることで、認証取得のインセンティブを高めることもできます。

「ケージフリー研究開発コンソーシアム」の形成

政府の研究機関、大学、民間企業の研究部門が連携して、ケージフリー飼育に関する研究開発を推進するコンソーシアムを形成します。

政府が研究予算を提供し、企業は実証実験の場や実用化のノウハウを提供する、という分担で、効率的な研究開発が可能になります。研究成果は参加者全体で共有し、業界全体の技術レベル向上に貢献します。

「ケージフリー教育プログラム」の展開

学校教育や消費者教育の中で、動物福祉とケージフリー飼育について学ぶプログラムを、政府とNGOが協力して展開します。

文部科学省と農林水産省が連携して、学習指導要領にアニマルウェルフェアの要素を盛り込んだり、教材を開発したりします。NGOは、学校への出前授業や体験学習プログラムを提供します。

若い世代の意識を高めることで、将来的なケージフリー卵の市場拡大につながります。

移行期間における配慮と段階的アプローチ

ケージフリー化を推進する際、重要なのは急激な変化を避け、農家や業界が対応できる速度で進めることです。

小規模農家への特別配慮

規模の小さい農家ほど、転換にかかる負担が相対的に大きくなります。補助金制度では、小規模農家に対する補助率を高めに設定するなど、規模に応じた支援の差別化が必要です。

また、複数の小規模農家が共同で転換に取り組む「グループ転換」を支援することも有効です。共同での研修受講、共同での販路開拓、共同でのブランド展開などにより、個々の負担を軽減できます。

地域特性への対応

日本は南北に長く、気候条件が地域によって大きく異なります。北海道と沖縄では、適したケージフリー鶏舎の設計も異なるはずです。

支援策を全国一律にするのではなく、地域の気候や飼育環境に応じたきめ細かな対応が求められます。地方自治体や地域の農業団体が、それぞれの地域に適した転換モデルを開発し、横展開していくアプローチが有効でしょう。

段階的な目標設定

業界全体で一気にケージフリーに転換するのではなく、段階的な目標を設定することが現実的です。

例えば、以下のようなマイルストーンを設定できます。

  • 2030年:ケージフリー率10%達成
  • 2035年:ケージフリー率25%達成
  • 2040年:ケージフリー率50%達成
  • 2050年:ケージフリー率75%以上達成

各段階で達成状況を評価し、必要に応じて支援策を見直したり、次の段階の目標を調整したりする柔軟性も重要です。

移行期間中の価格安定化策

ケージフリー化が進む過程では、卵の供給量が一時的に減少したり、価格が上昇したりする可能性があります。

政府は、備蓄制度や価格安定基金などの仕組みを活用して、消費者への影響を最小限に抑える配慮が必要です。また、学校給食や福祉施設など、価格変動の影響を受けやすい公的需要に対しては、特別な支援措置を検討すべきでしょう。

消費者の役割と選択の重要性

ケージフリー化を推進する上で、最終的に鍵を握るのは消費者です。消費者がケージフリー卵を積極的に選択することで、市場が拡大し、農家の転換を後押しすることができます。

価格プレミアムの受容

ケージフリー卵は、飼育コストが高い分、通常の卵より価格が高くなります。この価格差を消費者が受け入れ、「適正な価格」として支払う意識が必要です。

動物福祉、環境への配慮、農家の適正な収入確保など、ケージフリー卵の価値を理解した上で、価格差に納得して購入する消費者が増えることが、市場の持続的な成長につながります。

情報への関心と理解

消費者自身が、卵の生産方法や動物福祉について関心を持ち、正しい知識を得ることも重要です。

「平飼い」「ケージフリー」「放牧」などの表示の意味を理解し、自分の価値観に合った選択をする。そのためには、生産者や企業が提供する情報に目を向け、時には自ら調べる姿勢が求められます。

声を上げることの重要性

消費者は、企業や行政に対して、ケージフリー卵の取り扱い拡大や政策支援を求める声を上げることもできます。

スーパーに「ケージフリー卵をもっと置いてほしい」と要望したり、好きな食品企業に「ケージフリー卵を使ってほしい」とメッセージを送ったりすることで、企業の方針転換を促すことができます。

また、選挙や政策提言の場で、動物福祉やケージフリー化への支援を求める声を届けることも、政策形成に影響を与えます。

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まとめ――持続可能な養鶏産業への転換に向けて

ケージフリー化は、単なる飼育方法の変更ではなく、養鶏産業全体の持続可能性を高め、動物福祉に配慮した社会を実現するための大きな転換です。

しかし、この転換を農家の自助努力だけに委ねることは現実的ではありません。初期投資の負担、技術習得の困難さ、販路確保の不安など、農家が直面する課題は多岐にわたります。

これらの課題を解決し、農家が安心してケージフリーに踏み出すためには、政府と民間企業が緊密に連携した包括的な支援体制の構築が不可欠です。

政府は、補助金制度の整備、技術指導体制の構築、基準・認証制度の創設、研究開発の推進、消費者啓発など、多面的な支援策を展開すべきです。一方、民間企業は、調達方針の転換、販売促進、技術支援、金融支援などを通じて、ケージフリー卵の市場を拡大し、農家を支える役割を担う必要があります。

そして、政府と民間が「ケージフリー推進協議会」のような枠組みを通じて対話し、共通の目標に向かって協働することが、成功への近道です。

さらに、消費者一人ひとりが、自らの選択が農家と動物の未来を左右することを認識し、ケージフリー卵を積極的に選ぶことも重要です。

日本のケージフリー化は、まだ始まったばかりです。しかし、政府、民間企業、農家、消費者が一体となって取り組むことで、欧米諸国に遅れを取ることなく、動物福祉に配慮した持続可能な養鶏産業を実現できるはずです。

ケージフリー化は、動物にとっても、農家にとっても、そして社会全体にとっても、より良い未来への一歩です。その一歩を確実に踏み出すために、今こそ政府と民間の連携が求められています。

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