ケージ飼育の鶏はどんな生活を送っている?衝撃の現状

ケージ飼育の鶏の生活 ケージフリーと卵産業の基礎知識

私たちが日常的に食べている卵。スーパーマーケットに並ぶ卵のほとんどは、ケージ飼育された鶏によって産まれたものです。しかし、その鶏たちがどのような環境で生活しているのか、私たちはどれほど知っているでしょうか。本記事では、ケージ飼育の実態と、そこで暮らす鶏たちの生活について詳しく解説します。

ケージ飼育とは何か

ケージ飼育は、採卵鶏を金属製のケージ(檻)に入れて飼育する方法です。日本では採卵鶏の約90%以上がこの方式で飼育されており、世界的にも広く採用されてきた飼育方法です。

従来型のケージは「バタリーケージ」と呼ばれ、一つのケージに複数の鶏を収容します。効率性を重視した設計で、狭いスペースに多くの鶏を収容することで、大量の卵を低コストで生産することが可能になっています。

ケージは通常、横に長く連なっており、まるで電池(バッテリー)のように並んでいることから「バタリーケージ」という名称がつけられました。一つの鶏舎に数千羽から数万羽の鶏が収容されることも珍しくありません。

鶏たちの生活スペース

ケージ飼育における最大の問題は、鶏一羽あたりのスペースの狭さです。

日本の畜産技術協会の飼養基準では、成鶏一羽あたりの床面積は約550平方センチメートルとされています。これはB5サイズの紙よりもやや小さいスペースです。想像してみてください。成人した鶏が、iPadやタブレット端末程度の広さで一生を過ごすのです。

実際には、一つのケージに4〜5羽が収容されることが多く、鶏たちは互いに体を寄せ合い、ほとんど身動きが取れない状態で生活しています。羽を広げることも、方向転換することも困難です。

この狭さは、鶏の自然な行動を大きく制限します。野生の鶏や放し飼いの鶏であれば当たり前に行う行動が、ケージの中では一切できないのです。

奪われた本能的行動

鶏は本来、非常に活動的で知能の高い動物です。しかし、ケージ飼育ではその本能的な行動がほぼすべて制限されています。

砂浴びができない

鶏にとって砂浴びは、羽毛の手入れや寄生虫の除去のための重要な行動です。野生の鶏は一日に何度も砂浴びを行いますが、ケージの床は金網でできているため、砂浴びは不可能です。この欲求不満から、鶏は異常行動を示すことがあります。

止まり木に止まれない

鶏は夜間、木の枝などの高い場所で休息する習性があります。これは天敵から身を守るための本能です。しかし、従来型のケージには止まり木がなく、鶏は一生、金網の床の上で立ち続けるか座り込むしかありません。

営巣行動ができない

卵を産む前、鶏は本能的に静かで安全な場所を探し、巣を作ろうとします。しかしケージには巣箱がなく、鶏は落ち着かない状態で卵を産まざるを得ません。産卵前の鶏は、巣を探すために何時間もケージ内を歩き回ることがあり、大きなストレスを抱えています。

採食行動の制限

野生の鶏は一日の大半を、地面をつついて餌を探す行動に費やします。しかしケージでは、餌は自動給餌器から供給され、自然な採食行動を行うことができません。地面をつつき、かき分けるという本能的欲求が満たされないのです。

身体的な苦痛

狭いケージでの生活は、鶏に深刻な身体的問題をもたらします。

骨折と骨粗しょう症

ケージ内では運動がほとんどできないため、鶏の骨は非常に弱くなります。研究によると、ケージ飼育の鶏の約30%が骨折を経験しているとされています。特に、出荷時にケージから取り出される際に骨折するケースが多発しています。

また、産卵のためにカルシウムが大量に消費されることも、骨を脆くする一因となっています。骨粗しょう症になった鶏は、日常的な動作でも骨折のリスクにさらされます。

足の変形と損傷

金網の床の上で立ち続けることで、鶏の足は変形し、痛みを伴う損傷を受けます。金網は鶏の足裏に食い込み、炎症や潰瘍を引き起こすこともあります。また、爪が異常に伸びたり、変形したりすることも一般的です。

羽毛の損失

狭いケージの中で他の鶏と接触し続けることで、羽毛が抜け落ちたり、傷んだりします。また、ストレスによって鶏同士が互いの羽毛をつつき合う「羽つつき」が発生することもあります。

この問題に対処するため、多くの養鶏場では雛のうちにくちばしの先端を切断する「デビーク」という処置が行われています。これは麻酔なしで行われることが多く、鶏に激しい痛みをもたらします。

精神的ストレス

身体的な苦痛に加えて、鶏は深刻な精神的ストレスにもさらされています。

欲求不満

前述のように、本能的な行動がすべて制限されることで、鶏は常に欲求不満の状態にあります。これは人間が一つの部屋に閉じ込められ、何もすることがない状態に似ています。

社会的ストレス

鶏は社会性のある動物で、野生では20〜30羽程度の群れで生活し、明確な序列を形成します。しかし、ケージ内では序列を確立するための十分なスペースがなく、常に緊張状態に置かれます。

また、大規模養鶏場では何万羽もの鶏が一つの空間に存在するため、鶏は自然な社会構造を形成できません。

環境ストレス

多くのケージ飼育施設は、窓のない建物内にあり、人工照明と換気システムに依存しています。鶏は自然光を浴びることも、外の空気を感じることもできません。

照明は産卵を最大化するために操作され、鶏の自然なリズムは無視されます。また、大量の鶏が狭い空間に収容されているため、アンモニアなどの有害ガスの濃度が高くなることもあります。

短い寿命と出荷

採卵鶏の寿命は本来10年以上ありますが、ケージ飼育の鶏は通常1〜2年で「廃鶏」として出荷されます。

産卵率が低下すると、経済的価値がなくなったと判断され、食肉加工場に送られます。しかし、その頃には骨が非常に脆くなっており、輸送中に多くの鶏が骨折や死亡に至ります。

また、雄の雛は卵を産まないため、孵化直後に殺処分されます。日本では年間約1億羽の雄雛が、生後数時間から数日で殺されているとされています。

世界的な動向と日本の現状

EUの取り組み

欧州連合(EU)では、2012年から従来型のバタリーケージの使用が全面禁止されました。現在は、より広いスペースと止まり木、巣箱などを備えた「エンリッチドケージ」か、平飼い、放し飼いのいずれかでの飼育が義務付けられています。

企業の方針転換

世界的な食品企業や小売業者の多くが、ケージフリー(ケージを使わない飼育)への移行を宣言しています。ユニリーバ、ネスレ、マクドナルド、スターバックスなどの大手企業は、サプライチェーン全体でケージフリー卵への切り替えを進めています。

日本の遅れ

一方、日本ではケージ飼育が依然として主流です。ケージフリー率は5%程度にとどまっており、先進国の中では大きく遅れています。

しかし、近年は日本企業の中にも動きが見られます。一部の食品メーカーや小売業者がケージフリー卵の取り扱いを始めており、消費者の意識も徐々に変化しつつあります。

代替となる飼育方法

ケージ飼育の代替として、以下のような方法があります。

平飼い

鶏舎の床に敷料を敷き、鶏を自由に歩き回らせる方法です。止まり木や巣箱を設置し、鶏の自然な行動をある程度可能にします。

放し飼い

平飼いに加えて、日中は屋外に出られるようにした飼育方法です。鶏は土をつつき、草を食べ、日光を浴びることができます。

エンリッチドケージ

従来のケージよりも広く、止まり木、巣箱、爪とぎ用の設備などを備えたケージです。EUでは最低基準として認められていますが、動物福祉団体からは不十分との指摘もあります。

私たちにできること

消費者として、私たちには選択する力があります。

認証ラベルを確認する

アニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮した飼育方法で生産された卵には、認証ラベルが付いていることがあります。「平飼い」「放し飼い」などの表示を確認しましょう。

生産者を支援する

価格は高くなりますが、動物福祉に配慮した飼育を行う生産者を支援することで、業界全体の変化を促すことができます。

情報を共有する

ケージ飼育の実態について知り、家族や友人と情報を共有することも重要です。多くの消費者が関心を持つことで、企業や政府も動かざるを得なくなります。

企業に声を届ける

利用する飲食店や小売店に、ケージフリー卵の取り扱いを要望することも効果的です。消費者の声は、企業の方針に大きな影響を与えます。

まとめ

ケージ飼育の鶏たちは、極めて狭いスペースで、本能的な行動をすべて制限され、身体的・精神的な苦痛を抱えながら生活しています。効率と低コストを追求した結果、生き物としての尊厳が失われているのが現状です。

しかし、世界的には動物福祉への配慮が進んでおり、より人道的な飼育方法への移行が始まっています。日本でも変化は確実に起きつつあります。

私たち消費者一人ひとりの選択と行動が、鶏たちの生活を変える力を持っています。毎日の買い物という小さな選択の積み重ねが、やがて大きな変化を生み出すのです。

卵を手に取るとき、その卵を産んだ鶏の生活に思いを馳せてみてください。そして、可能な範囲で、より良い選択をすることを考えてみてはいかがでしょうか。動物たちの福祉は、私たち人間社会の倫理性を映す鏡でもあるのです。

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